Imaginantia

思ったことを書きます

ディスクロニア:CAをプレイしました

これです。Quest2オンリーです。そのうちSwitchでも出るらしいです。

dyschroniaca.com

以下、私の感想文です。ネタバレはそこそこあると思います。


なんだかどうやらものすごい体験ができるらしいので、VR (または非VR) の体験設計をやっている人間 (ref: VRについて考えてみた) としては是非やりたいと思いました。

嘘です。

私 (など) は過剰な宣伝にはもう辟易しており、今回の様子ではまたこれも「口だけの作品」ではないかと思った為、特にモチベーションはありませんでした。

しかし、折角こうも大宣伝していて、今までとは違う (今までを知りませんが…) と宣っている為、ちょっとやってみてもいいかもしれないなと思いました。

特に、知らないものを批判してはいけません (できません)。故に、正確な判断を持つためにはプレイするべきだと考えました。

というわけで3,4日くらいで最後までプレイしました。

 

こういうときの感想の表現として「作品がであったと読み取ったか」を示すことがいい方法なのではないかと私は考えています。(ref: 日記 1218)

それに則って喋ると、これは「VRのインターフェースというものを、その機能を文字にした状態で、設計し組み上げられた企画」だと私は思いました。

つまり本当のVRのポテンシャルなどには一切触れずに、「VRなら何ができるだろう」という文字情報からの推測で成立させられたものに思えました。

そしてその結果としてVRに成れず、ゲームに成れず、物語にも成れていない印象です。まぁ、そのどれでもない「新たな場所」に居ると考える人も居るのかもしれませんが。どこだろう。

というわけで、考えたことについて記していきます。

お察しの通りですが、基本的にネガティブな話が続きます。

主観性

VRが他媒体とは違う、顕著で劇的な要素が「主観であること」です。

「私の視点」と「プレイヤーキャラクタの視点」が一致している為、それによって「世界に居る没入感」が得られる。

しかし、良い話には必ずそれが反転した側面が存在します

即ち、「プレイヤーキャラクタの行動は私が決定する」という自由度と責任感の要求です。これが提供されて初めて「没入」に至ると私は考えます。

コレ自体はVRに限った話ではありません。桜井さんも言っていますが ゲームという媒体には一般に「行動と、その責任」があるものです。

しかしプレイヤーキャラクターが自分になってしまうVRという媒体では、特に顕著に現れるものだと思います。要は万物はトレードオフだという話です (ref: 日記 0319, 「造られた世界」を創らせない, つながりと実在性)。

 

ディスクロニアは主人公の視点で物語が進行していきます。当然ながら、プレイヤーの意思と主人公の意思は必ずしも一致するとは限りません。

そのままでは没入感が削がれてしまうわけですが、そこで発生する1つのハックが「主人公に喋らせること」です。

主人公は自分なので、主人公が喋ったことは自分が喋ったことになります。

つまり主人公 (ハル) が自身の思考過程を開示し、プレイヤーがその合理性を受理することで表層上の意思の統一を図ることができるわけです。

が、これには綿密な設計が必要です。そしてディスクロニアはそこまでやっていません。

  • アッシュの落とし物で過去を見に行く際、ハルは「記憶にアクセスできるみたいだ」と言い、プレイヤーは記憶にアクセスすることを強いられます (そうしないと進行しません)。他人の記憶にアクセスすることは倫理的に良くないと私は考えますが、ハルは特にそれを否定しません (アクセスできるということを言っただけ)。しかしゲームは進行上それを強います。即ちここで行われるのは「プレイヤーが自分で記憶を見たんだろう?」という、ゲームからの非倫理的な行動を行った責任の押し付けです。主観性を履き違えている例*1だと思います。
    • 他にもいくつかの箇所で「何ができるかは提示するが、すべきことは提示しない」ことがあります (いくつかの操作説明など)。自分でやることを見出す楽しみを提供しているつもりかもしれませんが、結局すべきことは決まっているわけで、そこにあるのはただの不親切なUXです。
  • 興味深いアイテムに触れたときにハルは驚くことがあります。そして、そのセリフが終わった後に再度触ってもまた驚きます。その辺のゲームではよくある手法だとも思いますが、主観体験においてはこれはプレイヤーとの乖離を生んでしまう、避けるべきセリフではないかと思います。プレイヤーはそんなに愚かではありません。
  • 物語上進行が決まっている際に行けない場所がいくつかありますが、行けない場所に行こうとするとハルが「こっちに行っている場合じゃない」などの発言をします。ハルの指が行き先を選んだにもかかわらず。他キャラクタに呼び止められるのは自然だと思います。
  • ファクトアイテムを嵌め込むとハルは「なるほど!」などと言います。嵌め込んだからわかるのではなく、プレイヤーがわかったから嵌め込めるもののはず。これもまた認識の乖離を生んでいます。

…まぁ、まず「主人公が意思を持って喋る」という形式が難しいという話がありますが。

いろんなゲームで、主人公に喋らせるケースと喋らせないケースがあります。

喋らせるケースに必要なのはキャラが立っていることです。キャラの思考が明瞭でプレイヤーがそれをトレースできる為、キャラとなって没入できるわけです。

逆に喋らせない場合は自分自身がゲームに入る体験になる為、そこでの意思決定はとことんプレイヤーに任され、行動の制約なども他者によって行われます。

ディスクロニアではどちらでもありません。ハルは記憶喪失な上に意思決定がぼんやりしているため後者スタイルにも思えましたが、身内が居たり特殊能力があったりと前者に近い環境でもあります。

 

また、発話以外にも没入を損なう要素がいくつかあります。

  • 移動を自由に行えない。これは後にも述べますが、会話中には移動ができず、会話は不随意に発生し、いつ終了かもわかりません。VRでの「コントローラによる移動」は慣れると一切コントローラ感なく「ただ歩く行為」として認識できる為、これができなくなることはストレスになります。
  • シーン切り替えのまばたき。区画移動以外にも会話中や強制移動で高頻度にハルはまばたきをしますが、プレイヤーにとっては「急に視界が暗くなること」と同じです。
  • 強制移動によるシーン切り替え。プレイヤーはなんにもしてないのにハルは移動することがあります。しかもスライドショーのように。次にどこに居るかわからない、空間の連続性が危ぶまれる状況は良い体験とは言えないと思います。
  • 強制死亡パートでは「逃げなきゃ」「隠れなきゃ」などとハルは考えているようですが、強制的に進行させられてプレイヤーは何も出来ずに死ぬのを待つだけです。隠れる気なく突っ立ってることもありますし。焦ることすらできない。
  • 設定上急がなきゃいけないパートで急いで移動しようとしたところで、移動速度がそんなに速くありません。

結局、そういう主観性 (=VRの利点) への強いこだわりは特になさそうなのです。

企画の解釈

では「何があるのか」を考えました。このゲームのジャンルは「VRノンストップ捜査アクション」らしいですが、「捜査」という概念自体にはVRらしさは見当たりません (そういうゲームありますし)。

しかしゲーム要素の1つに「過去を書き換える能力」があります。これはサイコメトリー的に人の記憶に主観として入って、さらに他者の過去の行動を操作することができます。

もしかしたら「他者の主観に入る」というコンセプトを軸に据えるとこの企画が説明できるのではないか、と考えました。

 

まず「VRで面白い体験ができないか?」と考える時、「VRは主観的なメディアである」ことは明らかな情報です。これを文字通り解釈すると、「いろんな人の主観を行き来する」のはVR的に面白いのではないかという推測が成立すると思います。

するとサイコメトリーが発想として出てきます。加えて「VRなのだから操作できると面白い」わけで、過去改変という成分も出てきます。そしてそれを自然に行わせる為に、プレイヤーに色々調査させる為に「事件捜査」という基盤を据えることができます。

そして「万能キャラには没入しにくいだろう」という推測を加えると「記憶喪失で意思が不明瞭な過去改変能力を持った主人公キャラクター」が生まれるわけです。

そうだね。

 

実はこれは最初の推測が間違っていて、VRにおける主観というのは本当の自分自身である為、いろんな人に成れるわけがないという話があると思うんですが、文字上ではそれに気づかないのではないかと思いました。

結果としてディスクロニアでの過去改変パートは「急に世界の外から行動を操作され、しかもそれによって起きた変化に当人は気づいていない」様子になっているように見えます。そう行動しなかった当人なりの理由があったはずなのに。行動の一貫性がなくなっているのです。

というわけで、文字上の仮定からパズルのように論理を組み立てていくと確かに道筋を再現できます。

…と、一応説明はつくはつくんですが勿論これが真実ではないと思います。さすがにね。

とは言え今のところこれを否定できないのも事実なので、今後の続編で何らかの真意が明らかになればいいなぁと思っています。

体験デザイン

このゲームはいろいろと体験が良くない箇所があります。体験を良くしようとした努力があるのも同時にわかりますが、良いレビューはいろんな人が書いていると思うので、ここでは良くない部分を取り上げます。

行動可能性

ディスクロニアは恒常的なHUDを排除しています。これは没入感を高めるためということなのかと思いますが、それによって「自分が今どの状態にあるのか」が不明瞭となっており逆に没入を損ねています。

ゲーム全体を通して「いつ動けていつ動けないのかがわからない」という大きな問題があります。既存ゲームでは例えば上下に黒帯を置いて「今はムービーシーンだよ」などの表示をしているわけですが、ディスクロニアには何もありません。

そして会話イベント中には移動できません。イベントが終わると移動できますが、イベントが終わったことを判定する方法がありません。リアリティとしては「会話が終わったのでぬるっと移動できるようになることが自然」という判断かと思いますが、結局移動できなくしている時点で没入を損ねているのでさらにそれを悪化しているだけに見えます。

この「移動できないタイミング」は至る所にあり、その都度もどかしさに苛まれます。

  • 会話が終わる (もう字幕が出てこない状況になる) としてもさらにアニメーションが発生していてまだ歩けないことがあります。さらにはその後また続いて異なる会話が始まることもあります。
  • 字幕は視線に追従しますが、任務やステータスの更新などの表示は上方に固定されています。つまり下を向いている状態では見えず、小さい効果音を聞いて上を見上げる必要が出てきます。当然この表示がある間は移動できないので、「移動できない理由を探す」ことになるわけです。
  • 発話がある台詞なら字幕の存在が明らかですが、詳細説明で出てくる単なる白い文字は対照的に存在が希薄となってしまい、会話中だと認識することが少し難しくなっていると感じます。
  • エリア移動を終えた際、「まぶたを開く」アニメーションでフェードインしますが、その直後はまだ歩けません。0.5秒ほど経つと歩けるようになります。
  • (ちょっと違う話ですが) このゲームではいろんな場所で拡張夢に入ることができますが、入れるのか否かを直観的に判定するのが困難です。世界には一応インジケーターとしての青いオブジェクトがあって「このエリアでは拡張夢に入れる」ことを示しているようなのですが、これは位置の情報を持っています。どういうことかというと、「『エリア』に関する情報を指示するもの」なのに「デザイン的に『位置』を示すもの」に見えていてギャップがあるということです。「いまここでは拡張夢に入れそうだな」ということが常に判断できることが望ましいと思いますが、これはHUDがあれば一瞬で解決する話です。色彩デザインや世界設定から解決することもできると思いますが、今の「建物近くでは不自然に (=人工的に) 拡張夢に入れない」状況では一貫した意味付けは難しそうですね…。
  • 拡張夢に入る・出る際にアニメーションが発生しますが、この間も歩けません。しかし拡張夢範囲外を示すWARNING表示を貫通するときにはアニメーションがスキップされ自然な移動ができます。「よろしくない移動方法」の方が体験が良い (移動を妨げられない) という状況はデザイン的に問題があると思います (当然強制的にアニメーションを入れるのは良くない解決策です)。
  • 強制死亡パートで他キャラクターに「逃げて」など声を掛けられますが、進行上逃げられません。「もしかしてこれはちゃんと逃げるパートなのかな?」と思っても結局そんなことはないので (勝手な) 期待を裏切られた気分になります。代わりにちょっと逃げようとしてもすぐやられる、みたいな流れはまだ体験として好ましいと思いますが、今回のシナリオの雰囲気からすると (そういうVR体験として設計しているわけではなさそうなので) できなさそうです。

移動 (VRでのスティック移動) は「コントローラを操作する感覚」というよりも「ただ歩く感覚」だと私は思っています (まぁ、慣れてるからというのはあります)。なのでそれを制約されるとその時点で窮屈に感じます。

今は移動できないんだろうということが直観的に察せられるならまだ良いと思いますが、現状では「もう動けるのかどうかをスティックをカチカチしながら*2確認し続ける」必要があるわけで、余計な意識を持ってしまってゲーム体験から外れている状況にあると思うのです。

会話の間

会話が長いのはまぁそういうゲームだからいいとして、間が長いです。「間」というのは言葉の重みや場の雰囲気を精密にコントロールできる面白い存在のはずなんですが、おそらく色々な理由が重なって間がめちゃくちゃ長く感じるようになっています。

  • このゲームは会話はスキップできますが、間はスキップできません。これによって会話中にトリガーを連打しているとおおよその時間が間で占められます。文字を読んで声より早く理解して次を読もうとした人がトリガーを引いて得られるのは、ただの「間」なのです (しかも字幕は消えるので再確認もできません)。これは「情報が欲しいというプレイヤー」と「情緒を提供したいゲーム」との対立が発生しているという話でもあります。ディスクロニアのような調査や謎をベースにしたゲームではプレイヤーの気持ちが前者に傾くのは避けられないような気がしますが…。
  • 会話中にアニメーションが入り、その間全てが「間」になることがあります (特にリリィ)。アニメーションを考慮に入れた間の設計になってない気がしますし、まずアニメーション中でも喋った方がリアリティがあると思います (これはいわゆる既存の文法に従いすぎているという話です、字幕も含め…)。
  • 特に過去改変パートでは会話スキップができないこともあるので (普段との無意識的な比較によって) 時間の経過が長く感じられる気がします。

強制移動

イベント時に連続したカットを何枚も見せられることがあります。「目を閉じる」「目を開く」「一瞬シーンが見える」「また目を閉じる」「目を開く」「違うシーンが見える」…みたいな感じで。

これはノベルゲームの文法なんだろうと思うんですが (よく知らない)、これは色々とVRとの相性が悪いです。

  • まず前にも書きましたが目を急に閉じられるのはびっくりします。予期していない現象は、自身に近いほど大きなストレスになります*3。シーン切り替えに便利だからと多用している様子ですが、それは同時に没入を奪っているわけです。
  • 複数シーンを分離された状態で提供されると、シーン間の連続性が失われます。つまりどうつながってこう至ったかがわからないわけです。確かに文字書きとしては「階段を登る」って言ったら階段を登ったことになると思っているのでしょうけども、ゲーム、そして特にVRでは「どう階段を登ったか」を演出できるし、演出すべきです。空間がどう繋がっているか把握することで「ドアの向こうに何があるかわかる」などの直観が生まれ、そこに居るかのような体験ができるようになるわけです。このゲームはずっと地図もない*4し、いろんなところで空間が切り取られて繋ぎ合わされちゃっているので、街全体の様子を把握することもこれまで辿った道筋を空間的に理解することもできません。
  • 名目上ハルが移動しているはずですが、「ハルが動いている様子」を認識できません。誰かに連れられて行ったのか、それとも客観視しているのかとか、曖昧性によって余計な解釈が生まれてしまう可能性があります。「これが何なのか」「今何が起きているのか」がわかることはVRでは特に大事だと思っていて (なお別に「こうなっている理由をわかるべき」という話ではないです)、何故ならそれがわからないということはそこに居ることで得られるはずの体験が得られていない、即ち「そこに居ない」ことを意味するからです。

VRで実際に移動させると大変と言いたいのはよくわかるんですが、まぁそれをしないということでいろんなものが欠落しているのを同時に受け入れるべきだという話です。

暗転ロード

このゲームはロードがめちゃくちゃ多いです。エリア移動が発生しそうな領域に近づいたらバックグラウンドでロードしておくとかできそうな気がするんですが、まぁなんであれひたすらロードが多いです。

そしてロード中は全てが真っ暗な中で青いインジケータがくるくる回っているだけの世界に閉じ込められます

ロード中なんだから仕方ないという話ではありません。これまでのゲーム文化は「長いロードをどうにか自然に見せる」ために頑張ってきたのです。

この暗闇はだいぶ「無」で、一瞬で没入から引き戻されます。

まぁロード中に青いインジケータがカクついてるのがわかるので、多分このスパイク負荷をプレイヤーに見せないためにこうしたんだと思いますが、それは負荷をどうにかすべき話です。

それに、このゲームはロードせずとも暗転により場面転換をすることが非常に多いです。その場合には暗闇の中で「音」を使って「扉が開いている様子」とか「エレベータが上昇する様子」とかを描こうとしているようなのですが、総じて作るのが大変だからプレイヤーに想像してもらおうという態度を感じます。これについても桜井さんが言ってますが…。

 

ついでに言うと「ロード中は常に黒背景」であることが決まっているようですが、「白にフェードアウトしてからロードが発生する」パターンでは画面が真っ白の状態から急に真っ黒に切り替わります。逆にロードが終わると黒から白にぱっと切り替わるわけで、余計な画面効果になってしまっています。

たまにぱぱっと点滅しちゃってるケースもあり、この辺りのエンジニアリング不足感が否めません。

対応がしんどいのはよくわかりますが、そういうところで積み上げた価値が一瞬で崩れ落ちたりするので…。

 

…正直一番気になってしまうところは、このように「いろいろと体験が良くない」ことを (明らかに) 感じられるにもかかわらず「最高傑作」として宣伝されている状況です。

まぁこれまで作ったものの中での最高傑作なのはそうかもしれませんが、それはあたりまえです。

もしかしたらVR初心者にはこれくらい (移動少なめ・間が多め?) じゃないと体験できないのかもしれないという見方を考えましたが、体験の不親切さ自体は当然変わりませんし、だからと言ってVR慣れしている人がしんどくなるコンテンツを最高傑作と言うのは変な話です。この程度の没入感で

何よりもその態度は「VRを活かしきったコンテンツではない」ことを表すものです。

まぁ、Switchで発売されるらしいのでその時点でそうなんですけど。媒体を活かしきってないから移植ができる。

既存VRゲームをあまりやったことないのかなぁ、VRで人とお話したことないのかなぁと思ってしまいますがそんなことはないらしいので、なんかまぁ、いろいろと大変なんでしょうね。

VRってすごい媒体なんですよ。ここまでシームレスな体験型メディアってなかったんですから。

そのうちよくなっていくのかしら…。もう何年経ったかわからないですけど。


 

さて、全体的な指摘はこんなところとして、以降、細かい突っ込みを入れていきたいと思います。

世界観

どうやら世界観を重視しているゲームらしいんですが、世界観というのは表現によって得られるものです。

文字媒体における「表現」とはそのまま「文字にすること」ですが、絵という媒体では「視覚的に表すこと」、ゲームでは「体験に落とし込むこと」にあたります。

つまり「VRゲーム」という媒体では、世界観というのは文字情報で表現するものではなく、感覚と体験を通して実感するものです。文字情報は薄っぺらいので。

例えば過去改変ができるという設定は、確かにプレイヤーが過去に行って行動を変えることができるという体験によって実感することができます。

ではあの「過去を見に行く際に出てくるキューブと球たち」は何なのでしょうか?どう読み解けばいいですか?

では世界にある「意味のない大量のUIパネル」は?「嚙み合わせる気のない歯車」は?「フロントすら存在しないあのホテル*5」は?「スタイルはあるが視認性のないフォントを重大な通知に使う意味」は?

これは期待しすぎなのでしょうけど、まぁ機能性を無視してただ「見た目が良さそう」なことを世界観の重視というのはどうなんだろうと思いました。

リアリティが無いという話ですね。

VRにおけるリアリティは「それがそうである理由があること」だと思っています。いえ、これは全ての媒体において、そうです。

その要求される解像度は媒体の持つ次元が高くなるにつれ増えていき、ただ文字をつなぎ合わせればよかった領域から空間設計の妥当性にまで展開されます。

そしてそこまでやるから (できるから) こそ、VRは面白い表現ができると思うわけです。

たいへんですね。

UI

まぁこれはありがちな話で、VRのUIで完璧に良かったものを今までほとんど見たことがありません。

  • ゲーム起動時のメニュー (オプションとか) はいわゆるビーム型の操作パネルになっていますが、「ボタンの上にポインタが乗っているときにしかビームが表示されない」ようになっています。つまり手が適当な方向を向いているときには「どこへ向ければ目的の場所を指せるかわからない (勾配消失問題)」ので、操作がしづらいです。
  • 右手でのオブジェクトの詳細表示は「握ってトリガーする」ことで行いますが、これは同時にオブジェクトについての会話を引き起こす場合があります。詳細が見たいと思っただけなのに会話が始まっていつのまにか移動できなくなっている状況がよく発生します。「同じ操作であること」が原因に思えます。
  • ましてやソファを「握る (触る)」だけで自動的に休むイベントが発生して、数秒間意図せず行動不能になるのも良くないと思います。
  • タッチ可能UIには凡そオレンジ色がついていて他 (ほぼ青) と区別できるようになっていると思うんですが、だからと言って「タッチしなくていいOKボタン*6」があって良いという話ではありません。色はあくまで補助であり、まず機能があるはずだと考えます。
  • ついでに言えば詳細が確認できそうなオブジェクトに表示されている六角形のマークは、図形が詳細すぎてモアレが激しく見た目があまり良くありません。
  • 移動すべき先を示すオレンジ色のインジケータは、拡張夢を経由すると見えなくなります。移動する際は拡張夢に入らないことを想定しているのかな…?とも思いますが、拡張夢に行くと得られるものもあるわけでそのあたりにギャップを感じます。拡張夢は設定上大事な存在であるはずなのに、ゲーム的に組み込むのがうまくいっていない雰囲気ですね…。
  • 広場が広すぎるんですが、そこだけ移動速度がちょっと速いです。が、それによって通常との感覚のズレが生まれており、歩き始めにつんのめる感覚があります。恐らく広場は「空間」ではなく「絵」としてデザインされた結果としてこうなっているんだと思います。VRにおける空間スケールの塩梅は毎度色々試してみるしかないと感じています。
  • 捜査ログとかが出る画面、背景が小さな「+」の配列になっていますがこれによって立体視に失敗することがあります (違う位置の + を同じものだと認識してしまう)。これは純粋なビジュアルデザインの問題ですが…。
  • ファクトアイテムを嵌め込むUIはどうやら「アイテムを嵌め込み先に触れ続けてアニメーションが発火するのを待つ」ことで行うようです (そう理解しました) が、ここだけこんな妙な仕組みになっているのが不思議です。他の持続系UIはちゃんと円グラフで認識中であることを示していますが、これだけなんか妙な挙動をします。しかもアニメーションがある場合とない場合があって、正直理由がさっぱりだったので「全ファクトアイテムを全嵌め込み候補に試し当てる」ことしか私はできませんでした。推理とは一体。あと「嵌めたことのあるファクトアイテムかどうか」もわからないし。

モーション

  • キャラクターについて
    • キャラクターのモーションとモーションの切り替わりが見え、没入を損なっている場合があります。
    • シーン切り替え時に1フレーム程度違うモーションになっているキャラクターが居ることがあり、また没入を損なっています。
    • 逆にリリィは丁寧になっている雰囲気があり (近いから重要だというのもわかります)、それによって相対的に他のモーションが微妙に見えているかもしれないです。
  • アニメーションについて
    • 全体的に線形な動きや意思の灯っていないカーブアニメーションで出来ているように見え、リアリティがありません。予備動作・事後動作がほとんど無いため、UIの「実体感」が物足りなく感じます。
    • 特にゲーム起動時のメニューの外枠 (左側と右側の時計) の回転アニメーションに一切意識が感じられなくて寂しいです。
      • ついでに言うとオプションを選択したときに「90°回るまでの角速度」と「そこから180°回るまでの角速度」が違っていて不自然です。
    • OPアニメも全体的に線形な動きで出来ています。これに関してはスタイルとして理解できなくもないんですが、やはりどこか臨場感 (物質感?) が足りないなとも感じます。ペラい。重みを出すためにはほんの少しでも「ぐっ」が欲しい…。物理法則が。
    • リリィの起動アニメーションだけなんだか気合入っている気がしました。アレだけは感情と意思を感じます。多分キャラの雰囲気がわかりやすいのでどういうモーションにしたいかが明白だったのだと思います。
    • 拡大アニメーションは常にダサいと私は思っています。物理法則に従わないし。やるとしたらDisneyみたいに思いっきり誇張するとか、タイミングをずらして単純な拡大に見せないとかですかね…。

シーン

  • 全てのサイバー的ディスプレイに謎のグリッチらしきものが掛かっているのはよくわかりません。グリッチというのは表示機構の構造によって発生する出力のブレなわけですが、どうにも無秩序に発生している様子に見えます。扉の手を置く部分とかも他のサイバーディスプレイとは違うように見えるにも関わらずゆらゆらしてるし。過度なシェーダの統一を感じます。
  • 寝る場所であるシェルターの広間には4つのドアがついていますが、「廊下のドア」と「部屋のドア」の見た目が完全に一致しているのはちょっと不思議では?と思いました。シェルター部分にコンポーネント的に組み合わせて構造を作れるという解釈はありますが、その場合は廊下とシェルターを繋ぐ廊下がもう一つありそう (直接刺すのはスペース的にも自由度が低いし)。何よりもゲームとして「外である廊下へ行く道はもう少しわかりやすくあって良い」と思います。色の違いとかではなく。
  • 広場が大変に広いです。絵としてはいいのかもしれませんが、現実側には人も居ないのでいつもスカスカで寂しく感じます。まぁ拡張夢のにぎやかな様子との対比にはなるんですが、空間がペラく感じます。
  • 拡張夢で魚がBoids的に動いているみたい (5000匹!) ですが、何故なのでしょう…?夢に居る魚がほかの夢についていってみんなで同じ夢を見ているみたいな状況でしょうか?市民たちは「魚の居る世界」を視ているのか「異なる夢の中の世界」に居るのかどっちなんでしょうか。後者かな?と思っていましたが、ではハルが話しかけたときはどのように見えているんでしょうか。メンタルが悪化すると人の形を取るらしいですが、では研究所や管理局の中の人の姿はなんなんでしょうか。そのうち説明されるのかしら。
  • そういえば魚が地面を思いっきり貫通するのもちょっと面白いです (魚同士は衝突しないのに)。ゲーム冒頭シーンではちゃんと地面に落下しているみたいでしたが。
  • 広場から見える巨大なロケーション表示板、言語切り替えしてしまうせいでぱっと読めないのは現実でもよくある BAD UI だと感じます (駅が顕著ですが)。裏からだとカリングされて見えないのはちょっと面白いです。結局ゲームとしての意識であって「世界にあるもの」としての表示を目指していないように思えます。
  • 登場する2つの駅の風貌が完全に同じなことも面白いです。例えば3Dプリンタ的に作っているみたいな言い訳によってアセットを作る大変さを隠しているのかと思いましたが、結局それによってプレイヤーは「自分が今どこにいるのか」の把握がしづらくなるという欠点を生み出しています。駅名も読めないし。
  • 時計塔の歯車が一切嚙み合わせる気がなさそうで悲しかったです (審問パートもそうですね)。曲がりなりにもchronoを名前に冠したゲームであり「時間」を根幹に据えたゲームで「時計」の描写が粗雑なのは如何なものでしょう。
  • そういえば時計塔の大扉の針がちょっと浮いてておもしろいです。

対話

  • ゲーム開始後のステルスパートの最後に音を立てて注意を逸らす部分、「どこに邪魔が居るのか」を認識する前に光っている物を見に行ってしまったために何をさせたいのかがわからず、手前のボットたちに向かって投げたりしてしまっていました。「このままだと進めない」的な補足もなかった気がします。
  • アッシュとの対話での「市民を見てこいよ」という台詞のあとに「市民は魚の形になって現れている」と言われるので、魚とお話できるのかな?とおもったら普通に白い人型だったのでちょっと齟齬を感じました。
  • 「“拡張夢”」という台詞、左側のダブルクォートが右側と同じものになってます。(他はまともそう?)

その他

  • ゲーム系
    • 謎解きパートは何だったんでしょう。あのよくわからない装置があの為だけにわざわざ用意されてるのも不思議ですし、棚の中を数年間掃除してなさそう (バタフライエフェクトが起きてないので) なのも謎ですし、色々と合理性に欠けます。謎解きってなんなんでしょうね。そのうち説明あるのかな。
    • メンタリングゲームも何なんでしょう。Analysis と Calibration ってあるので「Analysis した結果を元に Calibrate する」のだと思いますが、そこに人の手が介在する必要性はあるんでしょうか。まぁ人間にパズルを解かせようとするのも (コンピュータの方が速そうなので) なんだかなぁとは思いますが。Analysis 結果に対応して声を掛けてあげる、とかはありそうとおもったけど…。さっさと進行できるように設計した結果なのでしょうか。
    • ステルスパートも相手がだいぶ愚かな上、投げた物体の物理挙動が安定しない (投げをそんなに練習しているわけではない) のでゲーム性については微妙と感じます。というかあんな狭い場所でステルスが楽しめるわけないのでは…?
  • ちょっとした話
    • 最初にリリィが「ハル!」って読んでくれるとき、リリィが「う」の口にならないので叫んでいる感が薄いなぁと思いました。モデル的にしょうがない。
    • 審問パートとかで流れる曲に無音区間があるものがありますが、ゲーム音楽としては相性が悪いと感じます。ああいう溜めは解放するタイミングがあるから劇的なわけですが、今回の使われ方だとぬるっと背景で流れてるだけなのであまり効果的でない上、なんかおかしくなったのかな?と勘違いを与える可能性があると思います。
    • オブジェクトをつかんで離したとき、格納されたり、元の場所に戻ったりします。「格納しよう」と思って離したにもかかわらず元の場所に戻るという体験になるわけで、あまりよくなさそう (操作方法が同じであることに起因する話)。
    • 物語的には変異体はそんな多くない上に変異体の監察官なんてほぼ居ないような気がするんですが、ハルが監察官適正を貰うときにデカデカと Ability 欄があるのは世界観的に不思議ではないでしょうか (9割9分の人間はそこに「無能力」って書かれるんですか?)。
    • 時計塔の鐘はそんなに高頻度に鳴るものじゃないらしいんですがなんかめちゃくちゃいっぱい聴いた気がします。しかも記憶に残らない程に。今のところ大事じゃない要素ということなのかしら。
    • そういえば物語自体については特に書いていませんが、良くも悪くも言うことはなかったと思います。
  • 小さい話
    • 「冷静な監査官」だけ妙に顔が丁寧なのがよくわかりません。なんか既存の何かなのかしら。
    • 暗転状態でUI音がするときがあり、時々不安になります。バグかな?
    • エリア移動時に曲が被って一瞬再生されることがあり、たいへんそうだなあとおもいました。
    • 確かハルかマイアの部屋にあるおまけオブジェクトのAugmentedの綴りがAugumentedになっていた気がします。
    • ゲーム開始時の Press Any Button が何故か普通の書体で浮いてみえます。さみしい。

 

まぁこういうところは色々大変だと思いますので、だんだん改善されていけばいいんじゃないかなと思います。

ちなみに移動とか色々、最初は私は文句をずっと言いながらやっていましたがだんだん (しんどい状況に) 慣れました。恐らく開発のみなさんも同じ状況だと思います。

そうなると出てこない問題を潰すためにプレイテスターが居ると思うんですが、まぁテスターさんもVRアドベンチャーゲームに慣れてるかというとそうでもなさそう。

企画側でこういう細かい指摘ができることが理想だと思いますが、まぁそれができる (VRがちゃんとわかる) ディレクターもまた居なそう。

難しいですよね。

 

ちなみに指摘していない部分については、良かったんだと思います。何が残ってるか私もよくわかりませんが。

レビュー

どうやらレビューがめっちゃ好評らしいので、折角なので読んでみました。

おおよそが「非の打ち所のない」というレビューです。特に「VRゲームめっちゃやってるゲーマー」までもがそう言ってるらしいです。

良い点と言ってる内容は「VR」「物語」「描画」「ゲーム性」「UI」という様子。

多分、本当にそうなんだと思います。

結局私が長々と書いた文章は「4年間VRでいろいろ観てきた異端者」のレビューで、まぁおおよその人間には気づかないような欠点なのだと思います。これは矛盾しません。

例えば「既存のVRゲームは複雑でわかりにくいがこれは単純な分没入しやすい」というレビューがありました。それでいいと思います。

が、当然「現状最高」であることは「その先が無い」ことを意味しません。

ちょっとおもしろいのが、レビューのいくつかが「前作のアルトデウスでは出来なかったことができる」という言い方をしていました。開発側もしています。

しかしアルトデウスの評価は4.7と非常に高いです。つまり、大体の人は「足りない物」には気づかないということです。

まぁ、だからディスクロニアも「良いゲーム」なんだと思います。

が、そういう「良いだけのゲーム」って時代に埋もれるんですよね。それでいいんですけど。そういう時代だし。

…っていうか今までのVRゲームって本当にこれ以下だったんですか?まぁ大多数はそうなのかもしれないけど…。

なので、そうではなく、「きちんと地に足の着いた価値の提供」が生まれるに至ることを期待しているのです。

VRで出来ること」を実体験を通して考え、没入感を阻害する要素を可能な限り削り、そして本当の意味でこれまでになかった領域に辿り着くことができる作品を期待しています。

少なくとも、今のところは何もないと思います。

おわり

多分続編では大きな改善は起こらないと思いますが、折角なのでやります。

以上、私個人の感想文でした。


まとめ

  • ゲーム性が無い
  • 移動できないのがつらい
  • 意図と動作が一致したUIになってほしい
  • モーションには予備動作と事後動作が欲しい
  • 暗転によるシーン遷移は美しくない
  • まばたきがつらい
  • ロードが長くてつらい
  • 会話の間が長くてつらい

*1:選ぶことに責任は発生するが、選ばされたことには責任は元来発生しない

*2:押しっぱなしだとリアクションが感じられないので

*3:良い驚きになる場合もありますが、特にこれは驚かせたいわけではないでしょう

*4:博士のラボにあるのは地図というよりも設計図だと思います、現在地もないし

*5:まぁ最近 (現代) でも機能をデジタル側に移譲するケースがあるので理解できなくはない

*6:監察官適正検査結果表示のシーン