Imaginantia

思ったことを書きます

逆説性についての観測記

ある視点に対して逆説的にある視点を提示する、ということを全ての基礎に置いた観点を私は現代アートだと思っているんですが、今回の 盗めるアート展 はそういう流れを結構綺麗に観測出来たので記録も兼ねて纏めておきます。目的は思考の整理です。

私はアートそのものに関する知識も理解も多分あまりないです。でも色々頭を回せるので鑑賞は好きです。

根本的にアートそのものが逆張りの歴史みたいなところもあると思うんですが、それそのものを作品にした、というところでしょうか。

「盗めるアート展」というコンセプトから思いつく歴史を逆向きに辿ってみるとこんな感じになりそうです:

  • 作品が盗める展示
  • ← ギャラリーに置くと作品が盗めない
  • ← 個人が所有する作品は複数人で鑑賞できない

それに加えて「ギャラリーに置くと個人的に鑑賞できない→だからこそ→購入して所有する」という流れもあると思います。つまりここ単体では有向グラフになります。

そういう点で、今回の「アート展」というアートは「循環していた逆張りを抜け出す」という意図があるという観点があるような気がします。ここまではコンセプトの話。

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では実際に何が行われるかというのは作り手の視点でありうるわけですが、盗むという行為に意味を持たせる点ではこちらの記事にあるような「少し盗むことで変化する」という方向性を狙うのは確かに一つでしょう。これが正統なんだと思います。

ここから逆に進むと「盗めない展示」という考え方になります。これが世の中の人間たちが多く話しているやつで、大きすぎるとか脆いとか、その領域。でも全てが盗まれたという現状を見ると、展示者は誰もここで留まってはいないんです。

一応おそらくそれに近いのは「盗むのに抵抗のある展示」なんでしょうか。

で、次に逆に進むと出てくるのが「盗んでも盗めない展示」。これです。

それと同じ領域なのが多分これです。

つまり「其処に無いもの」が本体の場合。まぁ多分この紙も盗まれたんでしょうけど (何故なら作品なので)。

 

ここまで道を繋いだところでコンセプトに立ち戻ってみると、鑑賞者がこれまでの文脈を丸ごと読んで「盗める作品という存在について考える」という方向が正統になりそうです。それはWebページに書いてある通りですし。

そういう意味では盗むことに関連しない作品が最もコンセプチュアルな部分があると思います。つまり「盗むという文脈に対する逆」です。

まぁ私が文脈を持っていないことでこれを正しくは判断できないんですけど。この作品は「美術品展示として正統」であるが故に逆説的に「今回の展示に適している」気がするんです。

いじめっ子が一番こたえるのが「何も反応されないこと」っていうのと同じ構造ですね。

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もはやグラフではありませんが (一番最初のコンセプトの段階も循環を丸ごと点化しているような気もします)。

 

恐らくこれで完結しうるところがあったわけですが、その先の「現実」についても繋いでいきます。

まず「アートの鑑賞者」はこれを保ちたいと願う為に盗まないケースがある程度居ると思います。ちょっと適度に破壊をするケースも多いでしょう。これは正統。

で、「アートの鑑賞者」で無い人。そういう人はこの文脈に乗らない行動が出来て、純粋な破壊が出来ます。人間は文脈に乗らないことが出来ます。それが今回。

気になる点は「文脈に乗らない人の存在」を文脈に乗せるかどうかです。これが興味深くて。

文脈に乗せない側の意見は、「こんなことになってしまって悲しい」とか「もっと良い展示方法を考えたい」とかで。

これの逆を征く文脈に乗せる側の意見は、「この状況がアート」とか「人間のなんとやらがどうとか」みたいなことを言っています (人類はここに多いみたいです)。

で、これに逆を征くのが「どっちにしろ面白くない」という意見です。

「良い展示方法」っていうのはコンセプトを崩しうるんで容易に提案できるものではないと思うし。人間の愚かさみたいなのは結構前からこの辺の領域ではよく遊ばれていた気もするし。

そういう終着点に辿り着いてしまうと逆に向かないので文脈が受け継げないんですよね。まぁでも多くの人類はこれまでの文脈すら持っていないようなのでこれはこれで面白いんだと思いますけど。

、まぁそこで終わってほしいわけではない。

 

この終着点への到達も含めた文脈を紡ぐ可能性は辛うじて存在していて。

まぁ、後は実際に何が起きるかです。とは言えここまで1つの作品で文脈を繋いでしまうと芸術というよりも物語とかゲームに近い領域な気もしますけど。

例えば「盗めるアート展2」を一切形態を変えずに開催しても面白そうですよね。まぁ破壊者と異常鑑賞者の戦争が起きるだけな気もするけど。

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こんなところかなー…。

 

あと面白かったのは鑑賞者に紛れた創作者が居たことですね。

これは本線とは違う「善い文脈の向き」でしょうね。この方向に広がるのはほぼ不可能でしょうけど… (身内系ではよくありそう)。

 

いいはなしでした。