Imaginantia

思ったことを書きます

パラドックス・ゲーム

ゲーム、特にインディーっぽい「鋭さ」のあるゲームに、時折見つかる構造である「(広義の) パラドックス性」について、書いてみようと思います。

ここで言うパラドックスというのは、「有り得ない状況を作り出すことができてしまう」ことを指します。名を冠す Patrick's Parabox のように。

 

「作品」、その中でも特に「ゲーム」はその軸となるコンセプトが重要である媒体です。何故ならプレイヤーに選択が委ねられている為、プレイヤーが「世界の意図」に背くことができて、ゲームはそれを許さねばならないからです。

コンセプトが無ければ「どう許すか」を定めることが出来ず、結果として世界の破綻を導きます。逆に言えば、コンセプトに基づいてプレイヤーの行動可能領域が、即ち世界が設計されることになります。

この話題におけるコンセプトというのは「受け手を感動させたい」とかそういうふわっとしたものではなくて、謂わば「物理法則」のような強度を持つ存在です。「この世界ではそうなるのだ」という強制力そのものです。

例えば Baba Is You はとんでもない物理法則を採用している世界ですね。「法則は書き換えられる」という法則です。

 

さて、様々な物理法則を考えることが出来ますが、その中で1つ大切だといえることが「世界が破綻しないこと」、です。

例えば現実世界に「永久機関が存在する」という法則を導入するとエネルギー問題が解決しますが、それはこれまでの人類の努力を全て無に帰すような存在です。ゲームとしての体験としては良くない気がします。

0=1にならないように、時間軸に矛盾が生じないように、プレイヤーが異常な方法でクリアできないように、物理法則は後々に「困らない」ように慎重に定めなければ成りません。

そうやって世界の境界を定めることで、安全なplaygroundを作り出し、世界の展開を行うことが出来るのです。

ゲーム以外、正確に言えばインタラクティブでない媒体は、世界を容易に破綻させ得る能力を持っています。何故なら、そう語らなければ、破綻していなかったことになるからです。

だけど、それは「破綻していても尚良いと思う展開」があるからで、ただ徒に世界を壊してしまえば唯わかりにくい (わかるはずもない) 作品が生まれるだけです。

前ちょっと書きましたが、Vivy はなんだかんだ好きです。

 

しかし、当然、世界の外側に出られたほうが楽しいですよね。

 

即ち、世界の破綻を「さらに広い世界で包含する」という形で許す、パラドックスそのものを世界に取り入れたゲーム。

そこに辿り着く道はうっかりだったり、ストーリー上だったり、いろいろありますが、なんであれその「本来行けないはずの場所に行けてしまう」ということを肯定的に捉えた作品は、色々と面白いところがあります。

特に、予め設計されたのではなく、面白い物理法則を考えたらパラドックスが生まれてしまったケース。そこで諦めるのではなく、それそのものを許容する為に「先」を作り出したもの。

いいですよね。

ということで、ちょっと実際の例として私が思うものをいくつか挙げてみようと思います。

残念ながらこれはどうしてもネタバレが避けられない為、気になる人は読まないほうがいいと思います。

Recursed

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これは複雑な法則を展開していったらうっかり世界が崩壊しちゃったケースです。

箱に入ったり出たりして部屋間を移動するパズルゲームですが、箱が持ち運び可能であることで生まれる意味不明な複雑さをパズルにしているものです。

それによって稀に世界が崩壊します。具体的には「今いる場所から帰ろうとしても、帰る先が存在しない」状況がパズル的に発生します。

そのときにこのゲームで起きることは、全く違うパズル面に飛ばされることです。即ち破綻したら諦めるという、最も単純な解決策です。

とはいえこのゲームはモチーフを考えるとそれは自然とも言える (スタック破壊でRETして意味不アドレスに飛ばされる現象) ので、納得はできます。

Baba Is You

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「書いてあるものが法則」というものすごいパズルゲームです。ものすごいですね。

基底の物理法則としては倉庫番を採用してはいますが、その上に乗っかるものがデカすぎるのでもうなんとも言えないですね。

さて、自然言語は往々にしてパラドックスを生むことが知られており、これも例外ではありません。

A IS B とすると、A が B になります。

A IS B と B IS A があるとどうなるかというと、これは両立します。このときは1移動ごとに A と B が入れ替わるという、「ゲーム」らしい挙動を起こします。

では A IS B のとき A は絶対に B になるのかというとそうでもなくて、A IS A 「Aはそのままである」があると変化が発生しません。

では A IS A のとき A は絶対に変化しないのかというとそうでもなくて、A IS NOT A「AはAではない」を入れると矛盾を起こして A が消えます

パラドックス的状況に対して、言葉巧みにゲーム的解釈を与えることで「ゲーム」にしているのです。

 

そんな中でもどうしようもなかったケースが WORD ですね。BABA IS WORD と [実体のBABA] IS NOT WORD が同時に存在するとき、BABA IS WORD によって後者が有効化されますが、後者によって前者が否定されます。

そうすると起きるのがInfinite Loopです。これはもうどうしようもないというやつです。

これもまた納得行く所ではあって、いくつか「面白い解釈」でパラドックスの回避が出来るとは言え、そこに限界はあるわけです。書いたことは書いたこと、ですから。

Baba Is Youは「ゲームの内部仕様がどうなっているかを熟知していくゲーム」みたいなところがあるので、うまくパラドックス的状況をゲーム化できているのではないかなと思います。

HATETRIS

qntm.org

これも一つ、ちっちゃいゲームではありますが良いコンセプトだと思います。

ちゃんとライン消しをする為には、パラドックス (=どうあがいてもラインが消えてしまう状況) を作らなきゃいけないのです。

そういう「こうしたらどうなっちゃうんだろう」という世界の端を覗き見するようなプレイングを要求されるとなんだかゲームと対話出来ている感じがあって私は楽しく感じます。

好きなゲームというわけではないです。

Portal

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これは「常識的にはパラドックス」なゲームです。この世界ではエネルギー保存則が成り立ちません (ポータル維持に莫大なエネルギーを使ってるかもしれないけど)。

だけど逆にゲーム内で「運動量保存則」を提示していて、どこまで物理法則を破壊し、どこまでを破壊しないかについて言及していると言えます。

とはいえ、「ポータルをポータルに突っ込んだらどうなるのか」というパラドックスは存在します。

Portal(1)では「ポータルの貼ってある壁は動かない」という大原則がありましたが、Portal 2ではそうでもないということが示されています。

どっちにしろそんなことができる盤面はないので破綻には気づかれないわけですが、まぁゲームが面白いので良いと思います。

A Monster's Expedition

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これは素晴らしいです。「物理法則が見かけ以上に複雑なのでパラドックス的状況が容易に回収される」ゲームです。

これもBaba Is Youと同じように、既知の法則で収まらない領域になってくると「新たな解釈」を提示してくるゲームです。

特にそれをめちゃくちゃ自覚的にやってるところがにくいよね。

Baba Is Youは自然言語の複雑性がベースとなっている部分があると思いますが、コレは純粋に「美しく複雑に創られた世界」がベースになっていて好感度が高いです。

この記事を書こうと思った大本のきっかけはこいつです。同じようなこと出来ないかなって色々考えてたんだけどめちゃくちゃ難しかったんです。はい。

The Stanley Parable

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𝑼𝒍𝒕𝒓𝒂 𝑫𝒆𝒍𝒖𝒙𝒆 もあるよ

これは今までとは変わってウォーキングシミュレータ的な何かです。これはまさしく「プレイヤーが世界の意図に背いたらどうなるのか」それ自体をゲームにしたものです。

「安全なplaygroundを作り出し、世界の展開を行う」みたいな側面についても言及があり、こう、良いです。

背き方が多種多様である結果として、エンディングがたくさんあるという自然な結果につながっています。

「ストーリー的パラドックス・ゲーム」の1つの終着点なのかなと思います。

Superliminal

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これはパラドックス性をギミックの1つとして使っているゲームです。基本的にはゲームというより「体験」だなと思っていて、それとして私は良いものだと思います。

ふつうに破綻してない世界に居る、と思っていたのに、急に「この世界には破綻がある」ことに気付かされる感じは結構好きです。まさしくストーリー展開。

一般的にあのシーンがどう認識されてるかはよくわからないですが、私はアレで「納得」しました。

とは言え、逆に言えばアレがあるからなんでもいいよね、みたいな雰囲気も感じてちょっと勿体ないとも思っています。

体験としてはとても良いです。

Patrick's Parabox

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これは名を冠す覚悟がある程度にはパラドックスを扱っているゲームです。確かに。

こういう抽象空間だと「再帰的世界」程度ではパラドックスにはなりません。ここで発生するパラドックスは「再帰の外側になにがあるのか」、即ち Recursed、Superliminal と同じような構造です。

だけどこのゲームはちゃんとそれを解釈しています。諦めて飛ばすのではなく、ストーリー的進行と解釈するのではなく、パズルギミックとして取り入れています。

これは謂わば単なる exception handling だと思いますが、さらにそこから先を用意しているのはめちゃくちゃ偉いと思います。数学にも Universe Hierarchies とかありますし。

所詮パズルギミックといえばその程度なんですが、名を冠すことが許される程度にはちゃんとしていると思います。

アニメーションが根本的に不可能なのでそこそこに諦めているのも潔くて良いと思います。その解釈 (離散空間面: Roguelike盤面) もありますしね。

Braid

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これはアレを指しています。本来起こり得ないアレです。

まず根本的にあの周辺は明らかに「ヤバい物理現象」で構成されていて、それは即ち破綻の可能性を醸し出すものだったと確かに言えるのかもしれません。

その結果としてアレに至るのは、こう、すごい。すごいですよね。

こいつは語っていないようでめちゃくちゃ語っているタイプのゲームで、あの瞬間、美しく解釈を肯定する。

えぐいです。

これも結局パズルゲームというよりはやっぱり「語ることが主体」に感じますね。ちゃんと引き込むために世界を理解させる、為に私たちはゲームをプレイさせられているのです。

The Witness

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ついでに書いておきます。みんな大好きアレのことです。

みなさん御存知の通りこのゲームの基礎となる物理法則は「始点から終点まで線を引く」です。だから、それを展開する余地がある。

「外に出たらどうなるのか」を、うっかり実行するように、仕向けられている。

そうして最終的に辿り着く強大なコンセプトが「気づき」そのもの、だと思います。このゲームはずっと「気づく」ことを訴えている。

その抽象的概念を実体験以て理解させる為の巨大な枠組みがコレです。力を持つってこういうことを言うんでしょうね。

これはまさしく「強大なコンセプトをマジで実現している例」で、本当に理想的なところにあるゲームです。

これになりたいですね。

おわりに

というわけで「世界の外側に辿り着く」ような要素のあるゲームの話でした。

なんと去年の11月の時点で書こうとは思っていて、今日に至るまで機会がなかった

これは1つインタラクティブコンテンツの強みを示すものそのものでもあるのかなと思います。私はそういうのが好きです。

今回の話で大事なのは単に「世界の外側がある」のではなく、「基本法則を展開していくと外側に辿り着ける」ことです。これがメタ的ゲームとは違うところ。

私は別にゲームがやりたいわけではなくおもしろ体験がしたいんだとは思うんですが、こういうことをやる為の媒体としてはやはりゲームになるんだなぁ、というのを書いてて実感しました。そらそうよ。

こういうものがつくれるようになりたいです。

おわり。

 


 

四元素説錬金術を経て原子論へと発展し、馬車が電車に進化するようなこの現実世界、見方によっては今回のテーマそのものだとも言えそうです。コペルニクス的転回ですね。いい世界です。