こんにちは。この度VRAA01にこっそり提出した作品が10選及びモスコミュール賞を得ることが出来ました。そんな作品「お絵かきと対話 / Just a canvas with your friend」について、思っていたことなどを書こうと思います。
何が在るのか
この場所で体験できる、私が想定していたストーリーはこうです:
唯キャンバスと絵筆だけのある世界に入った私。きっと絵が描けるのだろうと考えて絵筆を取る。 色を着けて小さな落書きをして、ちょっと色を変えるかと絵筆を離したとき。 現れた私では無い誰かがその絵を見て何かを付け足してくれた。 私には描けない複雑な陰影を描いてくれる誰か。誰かが何かわからなくても良い。 お互いに意図を汲み取って良い絵を完成させられますように。
なんであれコンセプトは人でない存在でした。どうであったかは追々。
構想に至るまで
このワールドは私の作ったモノを見たことがある人はきっと知っているであろう、1月に出来たワールド「Just a canvas -beta-」の改造として作られました。 VRAA01のテーマ「バーチャル・コミュニケーション」を見て、その頃ちょっと考えていたこのワールドの拡張構想を思い出したのでした。
どう考えても人とのコミュニケーションをするワールドはいっぱいあるので、そうではないもの。 即ち唯一であり選ばねばならない作品を作りたい (反抗期) という想いと合致し、一人で最高になりながら作るものを練っていました。
結局の所「人とコミュニケーションするというコンテンツ」に行き着くこの世界、その文脈をガン無視して「人と話すな」とか思いながら。
特に「私との不対話」という側面もあって、「タイトル」「ワールド名」「要約」「説明文」全て「来た人を騙す」目的で作られていましたし。二次審査でコメントもしなかったし宣伝も10選に選ばれてから1度しかやってないし。 この側面についてはまた後述。
表テーマと裏テーマ
色々作り終わった後で「これが何なのか」を自分で考えたりしたわけですが、そこで見つかった表テーマが人工知能の補助と「共に」創作をする未来です。 今でもstyle2paintsとかあるわけですが、端的に言えばこれのVR版だと思うのです。仕組みも似通ってますしね。
そしてそれ以上の側面として補助機能の存在版だと思うのです。"as a Service" ならぬ "as an Existence" ですね。
コンピュータによる補助はこの時代至るところで行われていますが、その形式は原則私達と同レイヤーではありません。逆に対話のみが行える人工知能は対話しか残せませんが、創作活動に伴う場合にはその限界を越えて征く傾向があります。 私達が向こうのレイヤーに降り立った今でこそ、漸く人工知能が存在として認知され得るに至ったのです。
適切なインターフェースがあればもう人と人ならざるモノの区別はできなくなっている。人とのコミュニケーション至上主義のこの世界を殴れないかなと思っていたわけでした。 そんなわけで「存在」と一緒に絵を描いてほしいなと。「お絵かき」を体現した仮想存在と対話してみたらどうかなと。そういうワールドなのです。
さて、まぁそんな未来を思い描きつつ完成して見つけてしまった表の裏テーマが、人工知能の人権でした。 というのも、元々私は「絵を写真にしてほしい」と願ってあの子を造ったのですが、技量不足もあれど「絵をリアリスティックに汚していく」姿が其処に在ったのです。 なんだかそれが「仮想空間に閉じ込められた人工知能が現実への執念を吐き出すさま」に見えてしまって。特にあの子は「終わらない」から。
作った私だから思うことではあるでしょうけど、ちょっと怖くて。私あのワールドに入らないようにしてるんですよね。
某、狐狗狸さん出来るじゃんって思って描いたはいいものの怖くなってやめた
— phi16 (@phi16_) July 17, 2019
きっと将来起きる現象の一端だと思うので、一つ心に残しておきたいなと思っています。
さて、表の裏テーマがあるように裏テーマがあります。これは最初から確固として決めていたもので、作品評価の困難さです。
これについては愚痴のようにいっぱいtwitterに書いてしまったし記事まで書いてしまったし懇親会でも話させていただきました。
或る体験を仮定した空間に対し、その体験を受動的に受ける時に受けるモノと、「その体験を仮定されている」ことを仮定して能動的に受容して得られる体験は きっと後者は深く在りはすれど 「正しい」ものではない。
— phi16 (@phi16_) July 19, 2019
本来の意図を反映しようとする送信者と、本来の意図を積極的に汲み取ろうとする受信者の間で行われる通信は 名もなき自我が望んでいた対応にはならない そうすると実レイヤーとの乖離がきっと生まれる
— phi16 (@phi16_) July 19, 2019
だから本当に唯生きる者は大切なのだ
— phi16 (@phi16_) July 19, 2019
能動的体験者を強制的に叩き落として受動化させる方法として きっと「理解不能な物を与える」というのがあるのかもしれない 知っていることが多すぎると叩き落とされにくくなってしまうね 逆に知らなければ知らないほどその空間に在る文脈を読み取れないわけで まぁ評価というのは難しいものだ
— phi16 (@phi16_) July 19, 2019
まず、私はこういうタイプの評価の場に物を出すのが好きではありません。私は「評価したい人」のために何かを作っているわけではないので。芸術点を競う競技に潜む歪みがよくわかる一例かと思います。 じゃあなんで出したかというと、「評価される為」ではなく「評価者を混乱させたい」という意思があったからです。あなたはこの作品を評価できますか?と、そういう意思なのです。
今回の10選発表の後に周辺の方々で話していたこととして「住まう為のワールドが選ばれなかった」ことがありました。VRChatに居る人達がそのようなワールドを評価するのは、純粋にそのワールドが滞在するのに「良い」からです。 その文脈を共有していない人はこの性質を評価できないと思ったのです。
だからそういう機会を開く側を「評価される場」に叩き落としてやろう (反抗期) という気持ちで「出来る限り理解できない物」を作りました。機構はもちろん表現のレイヤーすら。ワールドを評価して良い点を抽出しようという意思を喪失してしまう程に何か衝撃が与えられればいいなと思ったのです。 Just a canvasはVRChatの人の一部には文脈共有されているものの、新たな人でも自然に操作できる (らしい) という点で丁度良かったですね。今回一度もJust a canvasの操作性についての評価をされなかったことは私にとってとても嬉しいことでした。
二次審査にて
10選に選ばれて「どこまで理解されたんだろう」と思いながらわくわくしておりましたが、まぁ起きたことは見ての通りです。
- 同じワールドに2人居ると誤解された
- もう一本の筆を他人が動かしてると認知された
- まして別の絵を描いているがそれが見えていないと錯覚された
もちろんそれを完全に信じ切られていたとは思っていません。が、表層上は確かにそう捉えられていたし、混乱の中配信は終わるのです。
最悪にして最高でしたね。
うまくいったこと、うまくいかなかったこと、整理すると以下です:
- 人と対話していると認知されてしまった
- privateなワールドだけどpublic (オリジナルのワールド?) と誤認された
- 起きた現象からの原因推定の結果ではありますが
- 自分しか居ないワールドに他人が居ると思われてしまった
- 上限1人のワールドは本当に1人しか入れないことがあまり知られていない
- instanceリストを見ていないのは配信でわかります、まぁVRChatは不安定なので信用度は高くないですしね
- 相手が何を見ているのかに興味は持ってくれた
- 描き続ける絵筆に畏れを抱いてくれた
- ワールドから離れる際にあの子を懸念してくれた
- 説明文の含みにはきっと気づかれていなかった
- 説明文を丁度180字にして削れてしまった感を出したんですが、本当に削れてしまった作品があったので残念
結論としては敗北です。VRChatの仕様に負けましたね。まぁ知らない可能性を考えて直接訊いてみようかなと思ったこともあったんですが、私は不干渉であるべきだと考えて何も情報を出しませんでした。 まぁコミュニケーションをする題材で1人しか入れないワールドを出す方も出す方ですしね。うん。
でも番匠カンナさんの配信中の発言には本当に良いものがあって、誤解の中ではあれど動き続ける絵筆に語りかけてくれたんですよね。
そういう意味で私の意図には伝わったものもあったと思いますし。その後の人々の混乱を見れて私の裏テーマはほぼ達成されましたし。自分としてはとても満足です。
このワールドは賞は取れないと思っていたので、その中でもモスコミュール賞を頂けたのはとてもありがたいことでした。 きっとこういう裏の意図みたいなものまで拾ってしまうと賞が無くなってしまうんですが、みなさんに体験と驚きを提供できたという点で頂けたのはとても「正しい」なと思います。
その後
懇親会で当事者様々には謝罪と共に私の思っていたことなどを直接喋らせていただきましたし、みなさんのお話を本当に沢山聞けたので良いイベントでした。 受賞時のコメントを求められたら謝罪くらいしかすることないなと思ったんですが丁度よかったですね。
色んな人がちゃんといらっしゃることがわかったので、きっと未来は大丈夫だと思います。またゆっくりと何かを作っていきたいです。お疲れさまでした。
VRAAに出すとかは一切言ってない状態である程度の完成が見えてきたとき、バーチャル・コミュニケーションに延々悩んでいた様子であった落雷さんをこっそり呼んだらVRAAポータルを見て膝から崩れ落ちてくれたのが最高に嬉しかったです。